貧乏揺すりが止まらない。
貧乏ではないが、貧乏揺すりをしてしまう。
貧乏揺すりをしていると、余計な思考が振るい落とされる、気がする。
右足のつま先を床に着けたまま、踵が小刻みにビートを打つ。
だっだがだっだが、足踏み式ミシンか機織り機を今なら高速で扱えそうだ。
ついでに指の骨を鳴らして、集中が切れないように意識する。
私がもし世界を支えるゾウであったなら、今頃、世界は地割れで震撼していることだろう。
そこかしこからマグマが噴き出し、ラッパの音を聞く前に人類は滅びるかもしれない。
幸い、私は世界を支えるゾウではないので、心ゆくまで貧乏揺すりができる。
私がもしロダンの「考える人」だったなら、あまりに貧乏揺すりをするから、注意されるかもしれない。
「考える人」は真剣に考えている訳で、他意はない。
叱責される謂れがないと憤る必要もないので、安心して貧乏揺すりをしよう。
ああ、今は左足に選手交代した。
その内、両足で貧乏揺すりをするかもしれない。
何者でもない私の足は、何かを急き立てるように貧乏揺すりしている。
貧乏揺すりが止まらない。
貧乏ではないが、貧乏揺すりをしてしまう。
貧乏揺すりをしているが、余計な思考ばかりしている、やはり。
適当に、相変わらずに、それでも何者でもないことに安心しながら、貧乏に揺する。